50代は自分の体力の低下を自覚してくるお年頃。頑張りたいけど身体がついていかない。更年期に突入しようものなら、仕事に家事に、介護が重なってくると何重苦?!
それでも、否応なしに親の介護の問題は控えていて、仕事との両立を余儀なくされる日もやがてやって来ます。脳の「時期が来たら考えるボックス」にしまい込んでいる人もチラッと現実だけはチェックしておいて損は無しです。
2040年に65歳以上の人のおよそ3人に1人が認知症か、その前段階の軽度認知障害(MCI)となり、高齢になるほど有病率は上がるとのデータが厚生労働省による推計で公表(5月8日)されています。
2040年 認知症有病率14.9%+MCI有病率15.6%=30.5%
2060年 認知症有病率17.7%+MCI有病率17.4%=35.1%
自分も親もまぁ大丈夫でしょと思ってるあなた!このパーセンテージを見る限り無視できないのでは?いずれにしても、親に猶予は無いです。
この記事では、何もしないままでは高まるリスクを、認知症専門デイサービス職員の私が、実際に自分の親にしている簡単にできる認知症予防対策を紹介しています。
親が認知症になると、単なる高齢者介護よりもはるかに大変な介護が待っています。少しでも予防を始めるきっかけにしてもらえたら幸いです。予防対策ゼロから1を作っていきましょう。
五感を鈍らせない
今回は「聴覚」に注目です。
五感の中で最も鈍ると認知症への最短ルートと言われているのがこの「聴覚」
他者とのコミュニケーションが激減
聞こえないから聞き返す。何度も聞き返すと嫌な反応をされることは多々あります。そんな積み重ねで、やがて聞き返すことをあきらめてしまうと、自然と他者との距離は開いていきます。
家族でさえ、状況をわかりつつも、聞こえるように大きな声を出すことに疲れ、意思疎通を放棄してしまうこともあるでしょう。
他者とのコミュニケーションが減ることは、耳からの情報、刺激が入って来なくなり、脳は使われない機能を停止させてしまいます。認知症リスクを引き上げる大きな要因です。
補聴器を使えばいいの?
補聴器は、その人の耳に馴染むまでの調整に時間がかかるため、途中でやめてしまうという話はよく耳にします。耳に合わすことができたとしても、加齢と共に聴力は変化するなど、その後も調整は必要です。メガネよりもずっと自分に合わせることが難しいため、最善策とは言い難いようです。
他者とのトラブル
耳が遠くなると、デイサービスなど、人が複数集まる所では特に、他者とのトラブルを引き起こしてしまうことがあるので注意が必要です。
耳が遠い人と、耳が聞こえる人とのトラブルは日常的に起こっています。
耳が聞こえる人
「話しかけたのに無視された!」と主に無視されたと勘違いして、怒ったり、文句をつけることが多いです。
たとえ相手が耳が遠いとわかったとしても、今度は耳が遠い人をバカにしたり、自分より下に見る傾向が見受けられます。
耳が遠い人
何も言われてなくても、悪口を言われているという被害妄想を持ちやすいです。これは、実際に言われている経験がそうさせている場合があるので、誤解であっても、自己防衛が働いていると考えられます。
また、耳が遠い者同士では、相手も耳が遠いと気づかずに、話しかけては「無視された。自分の耳が遠いからだ」と自虐的に傷ついたり、相手が認知症の人の場合、そもそも意思疎通が難しい場合が多いです。
他者と関わろうとする人ほど、「無視」という壁にぶち当たっています。
デイサービスでは、常に職員が間に入って、言葉を伝えたり、トラブルにならないように会話に参加したりしています。
聴力を鍛える!
高齢になると、聴力の機能は自然と衰えていくもの。しかし、聴力を鍛えることで、少しでも下り坂を緩やかにすることは可能です。聴覚は音や声が勝手に聞こえてくる分、難しいのでは?と思いがちですが、そんなことはありません。ここで紹介するのは、簡単に取り組めるものばかりなので、ぜひ意識してお試しください。
音楽を聴く
音の高低、強弱、リズム、テンポなど、変化のある選曲で聴力を鍛えます。好きな曲を選んで、楽しみながらできます。
聞こえにくいからと、大音量で聴くことはNGです。余計に耳の聞こえを悪化させてしまいます。
出かけ先で快適な音楽
今は、耳の中に入れないタイプのイヤホンや、首にかけるタイプ、骨伝導タイプなどが市販されています。耳をふさがないので、外の音は聞こえます。イヤホンよりも安全で快適です。
私の親の場合は、本人の希望に沿った物を用意しています。今は「線の無いイヤホン」が気になっていたのでBluetoothイヤホンを買いましたが、耳に合わないのか落としてしまうので「線(コード)有り」に逆戻り。
音楽メディアは、まず携帯操作にかなり苦戦しがちなので、MP3というイヤホンでも、イヤホン無しでも聴ける軽くて小さい音楽メディアプレイヤーを購入。イヤホン無しで聴けることが私の親は重要でした。操作は機器自体に最低限必要な印を付けて、後は端的でわかりやすい取り扱い説明書を自作。手間はかかりますが、独居なので、一人で解決してもらうための策です。
その甲斐あって、外で音楽を聴きたい時に聴くことができています。
ただ、少し老化難聴が入って来て、耳に入れることを嫌がるようになって来ているので、耳に入れない上記で紹介したようなタイプを検討中です。
自然の音を聞き分ける
生活音、水の音、鳥の鳴き声、雨音、風の音、お鍋がグツグツしている音、ポストに新聞が入れられる音、外から聞こえてくる人の声、動物の鳴き声、乗り物の音、日常生活は音であふれています。
これまで意識していなかった無感覚だった音を、聞き分けて意識していきます。想像力も育まれ、聴覚の訓練になります。
因みに、私が作業している今だけでも、意識すると、雨音、風の音、パソコンのキーを打つ音、パソコンが起動しているモーター音、扇風機の音、洗濯機の回る音、子どもが部屋の中を歩いている音がしています。
そんな感じで、今どれだけの音がしているのかを意識するのも良し、不意に聞こえて来た音が何であるのか聞き耳を立てて当てるも良しです。
人の話を理解しながら聞く
高齢になると、耳が聞こえようが、聞こえにくかろうが、人の話を聞かない人は多いです。そういう人は、自分が話したいことだけ話せたら満足という人も多いです。
人の話に興味が持てないのは、性格的な要素が強いですが、人の話を聞くのが苦手な人の場合は、理解力の低下が関係していることが考えられます。
私の親もそうですが、理解することを面倒くさがるため、気をつけないと、周りとのトラブル、詐欺などの被害にも遭いかねません。
相手が何を言っているのかを理解しながら聞くことは、脳を働かせないとできません。
既に理解しにくくなっている人でも、少しずつ、ゆっくり時間をかければ、以前のようにとはいかなくても、理解力は巻き戻っていきます。
親との会話で気をつけたいこと3か条
- 言葉はゆっくりハッキリと話す
- 説明などは、短く区切りながら、わかりやすい言葉を使う
- 1回で伝わると思わない。何度も伝えることをめんどくさがらない。
高齢になると聞き取れない音階が出てくるように、自分と同じようには聞こえていない可能性があります。親が早口で話す人でも、こちらから話す時は、この3か条は必要です。
まとめ
「聴覚」が鈍ると、相手の声が聞き取れないため、コミュニケーションを取ることをあきらめてしまうようになります。それは耳から入る情報や刺激が減少につながり、脳は使わない機能を停止していくことで、認知症のリスクを高めてしまいます。
予防策としては、変化のある音楽を聴いたり、自然に聴こえる音や声を意識的に聞き分けることが挙げられます。聴覚の自然な衰えの曲線を少しでも緩やかにしていき、親が周りと穏やかな関係が築ける生活をあなたがサポートしていくことが望ましいです。