認知症かいごブログ

認知症の人の暴言暴力

パワハラ、モラハラ、カスハラ、今ではフキハラという不機嫌で周りに不快感を与えることを指すハラスメントまで出てきました。

ハラスメントは、介護施設現場でも例外なくあります。

ニュースだと、たいてい介護職員が加害者として扱われるものがほとんどですが、実際はその逆が日常的にあります。

認知症だから仕方ないと、献身的な姿勢を利用するような施設側の体制はいかがなものかと思いますが、変わらぬ体制を我慢し続けるより、早めに乗りきり方を体得した方が、自分の経験値は上がり、何より自分がラクになります。

認知症の人は、感情の抑えが効かなくなる人が結構いるのが現実です。元々の性格的なものもあるとは思いますが、認知症になったことで、常識が著しく欠如して、常習的に暴言暴力を介護職員にふるう人が一定数います。

暴言暴力は、自分にとって嫌なことをされそうな時に起こりやすく、入浴、トイレ、食事の時間、体操など多岐に渡ります。しかし、体調が悪くない限りは、機能維持や衛生を保つ点で削りたくないものばかりです。

そのような嫌がる人に対して、介護職員は、言葉を駆使してタイミングを図り、納得や気持ちの切り替えを行うことに尽力しています。無理矢理従わせることは虐待にあたります。

認知症の人は、性格、症状の出かたが、それぞれ違い、その人に合った対応が求められます。

そのため経験値の浅い新人職員は、いっぺん通りの対応や、まちがった対応をして、嫌な目に遭ってしまうことがあります。

ベテランだから完璧にできるわけではありませんが、失敗と成功の経験を重ねた対応・対処の引き出しをどれだけ多く持っているかで、違いが出てくるというわけです。

認知症の人は、山の天気のように気分も変わりやすいです。その山の天気に翻弄されないために、対応・対処の引き出しでカバーしているのです。

対応・対処の正解は1つでは無いので、上手くいかない時は別の方法が必要です。そのための引き出しです。しかし、どうしても難しい場合は出て来ます。その場合は時間をずらす、対応する人を変えるなど、何度となくチャレンジしていきます。

アプローチは、その時々で変わるので、沢山ある中の1例に過ぎませんが、新人とベテランの対応の違いを見ていきましょう。

入浴拒否の事例

利用者「もう朝に入ってきたから風呂は入らへん!!」

新 人「お家では入ってられませんよ。みんな入ってもらってますので入ってください」

ベテラン「そうなんですね。わかりました。お薬だけちょっと塗らせてもらいますので、上の服を脱いでください」

このやり取りで、新人は事実を言ってますが、認知症の人が相手では、この返答は間違っています。

間違っている点
・認知症の人に対しては基本的に否定の言葉はNG
・利用者の性格や特徴を理解しているかが不明

みんなという表現については、利用者の性格や特徴を理解しているかがポイントになります。「みんなも入っているのであれば自分も入ろう」「みんななんか知ったことでは無い」

成功につなげるには
・職員は利用者の言葉を受け止めていることをしっかり伝える(自分の気持ちが伝わっていないと拒絶一択)
・お風呂とは言わずに、脱衣してもらう動作につなげる言葉を使う薬を塗る、着替えだけでもなど
・考えるより先に1つ1つの動作を短くテンポ良く伝えていく「くつ脱いでください」「マスクを取ってください」「上着のボタンだけ  外しておいてください」など

それでも拒否が強い場合は
・対応する職員チェンジ
・違う声かけ
・時間を置く

介助時の暴言

利用者「あんた何もできひんやろ。殺したろか。」

新 人「なんでそんなこと言うんですか」言葉を返せずフリーズ

ベテラン「何に対してですか?」「物騒な言葉が出ましたね。いったい何のテレビを観たんですか?サスペンス?」

新人の弱点
・言葉どおりに受け止めてしまう
・言葉を流せず傷ついてしまう
・怒りでストレスが溜まっていく

ベテランの回避術
・嫌な言葉は真に受けない
・言葉を意図的に変換していく(殺す→サスペンス)
・ジョークで返す(「えらい物騒な言葉が出ましたね~、昨晩のテレビですか?」)

認知症の人でもあるある
・普通に新人イジメをしてくる人がいる
・相手によって態度や言葉をわかって変える人がいる
・言葉をオブラートに包めない
・思ったら口から出てる人は多い
・機嫌が荒れても一瞬で普段どおりに戻ることもある(そしてその逆も)

まとめ
言葉よりその言葉の背景を見る。
ベテランは、常日頃から利用者ひとりひとりをよく見ていることで、言葉そのものよりも、その背景を探ることができます。心当たりが無く、不穏な言葉が出た時は、家で何かあったのか、薬の加減かなど、違う視点で見ながら対応しています。その日その時の症状によって攻撃的な日が続いたりするので注意が必要になります。

介助時の暴力

利用者 自力で脱衣できないが介助に対して強く暴れて抵抗する

新 人 靴下を脱がせるために利用者の足元にかがんで脱がせている

ベテラン 上の服の脱衣を担当

事 件 脱衣に慣れていない新人は、靴下が横からでは脱がせにくく、椅子に座っている利用者のやや前側に行った瞬間、便の付いた靴下のまま、新人の顔を思い切り蹴り上げ、新人は吹っ飛ばされる

原 因 新人は予めその利用者の前側に行かないように言われていたが、便付き靴下を脱がせることに集中しすぎて前側に行ってしまったこと

その後 新人はしばらくその利用者の介助から離してもらったが、徐々に復帰。それを機に新人の危険察知能力は一気に上がる

認知症が進み、感情のコントロールができなくなったことによって、反射的に暴力をふるう人がいます。介助をする介護職員は常に危険に晒されています。

・支えている手に爪が食い込む
・介助を拒まれ引っ掻かれる・叩かれる・蹴られる・殴る

介護職員は手を離すことも、その人から離れることもできない場合は多いです。
事例の利用者は、片マヒがあり、上の服の脱衣時も常に健常な側の手であらゆる抵抗をし、オールラウンドな暴力をしています。

回避術
・手の届く位置に立たない
・支える時は手の指位置にも注意
・動きを読み、丁寧かつ迅速に介助する
・見かたを変える(暴れるな→元気で何より)

大切なこと
暴力を回避することも身を守るために必要ですが、どんな相手でも声かけは必要です。気持ちを汲んだ言葉、励まし、応援、介助の説明など、コミュニケーションをとることで、信頼関係を地道につくっていきます。

頑張れる素
その人からの感謝の言葉。認知症で失った元の理性がごくたまに顔を出す瞬間があります。99%の暴言暴力が1%の「ありがとう」の一言で救われるような気持ちなり、チャラにしてしまう瞬間。

まとめ
・危険な位置に立たない
・歩行介助などは、爪が入らないように指の位置を考えて支える
・気持ちを汲んだ声かけ、コミュニケーション、介助動作時の声かけで地道な信頼関係をつくっていく。

認知症介護における暴言暴力は、どう認知症の人と向き合うかで、自分のダメージは大きく左右します。

認知症の症状への理解、一人一人の認知症の人への理解、コミュニケーションを高めていくことで、同じ暴言暴力でも違う捉え方ができるようになります

一方、相手の置かれている立場を理解できず、その人が発した言葉や態度の背景を見ず、介護してあげていると自然に上からの立場で思考していては、キツイままです。

認知症の人でなくても、自分に対して親身になってくれる人にお世話になりたいもの。身構えず、素直になれるのも、心開くのも相手によりけりです。認知症の人と接していると、みなさん敏感に感じとっているように思います。

自分からの歩み寄りが自分をラクにしてくれます。