気の長い人、短い人がいるのは高齢者も同じ。
今回は、気の短い高齢者の人の気の収め方の話です。
デイサービスの送迎車の朝は、利用者の各お家を回って迎えに行き、最後にデイサービスへ向かいます。乗合タクシーみたいな感じです。
その時の状況や人により、時間がかかる時があります。
気の短い人と、マンション住まいで送迎に時間のかかる人が組み合わされる曜日があり、その時は要注意です。
マンションは単に動線だけでも時間がかかりますが、本人もまた認知症がゆえにすんなり出て来れない時が多く、拾う順番を変えると他の利用者の迎えが間に合いません。
必然的に、じっと待てない気の短いBさんが先に乗り、マンション前で待機となります。
事件1「いつまで待たせるんじゃあ!!」
あらかじめ、気の短いBさんには時間がかかることを伝えておきます。「わかったわかった」と愛想良く返事をしてくれます。きっと認知症で無ければ、そんなふうに言って待ってくれる人だったのでしょう。
しかし、認知症ということで、短期記憶が保てません。すぐに忘れてしまいます。
戻って来ると、案の定、Bさんは荒れ荒れ状態で「遅い!!」と激昂していました。待機の運転手から手短に状況を聞きますが、自分のことを言われていると察知して「お前ら何悪いこと言っとんねん!」とさらに激怒。
どうやら、マンションの人を呼びに行って、ものの5分もしないうちに「戻ってこーへんから早く車出せ!」と言い始め、持っている杖で運転手を突いて攻撃したり、他の利用者に八つ当たりしたりしていた様子。
Bさんは、ただひたすらに待たされているという思いで怒っていたのでしょう。とりあえずBさんの怒りを鎮め、その場を平和に戻すことに職員は尽力していきます。1日の始まりです。できる限り気持ちをリセットしていきます。
職員:「お待たせして申し訳ございません。」
Bさん:「遅いんじゃあ!!」
職員:「すぐに出発します!」
Bさん:「早よせぇ!!」
職員:「はい!急ぎます!」
車が走り出したら、荒げていた言葉も落ち着いて来ますが、機嫌が戻るにはまだ時間がかかります。「ここは○○です」と、到着するまで、できるだけ興味の持てそうな建物や会話で気をそらしていきます。
そして到着する時には、次することへ思考をシフトしていきます。
トイレの近い人なら「付いたらすぐトイレにご案内できますので」
運動の好きな人なら「今日も楽しく体を動かしていきましょう」
目的がわからない人には「ここではお昼ご飯を食べて、午後には健康のための体操を行う予定になっています」など、さっき長く待たされた気持ちを払拭してしまいます。
声かけとしてNGは、「まだ着きません」「静かにしてください」無視するなど、こちらの都合に合わせた言葉や態度です。結果的に何の解決にもならないからです。余計に不穏になり、その日一日、周りにも害を与えてしまう可能性が非常に高くなります。
とはいえ、いったん落ち着いて忘れてしまっても、機嫌の悪さは元に戻りやすく、少しのことでもまた気持ちが悪い方向へ向いてしまいます。
そのような時もまた、気持ちをそらせていく声かけで少しでも機嫌良く過ごせるようにしていきます。
事件2「もうここでおしっこする!」
また別の日の同じ状況。マンションの人を迎えに行き、送迎車まで戻って来ると、なんと、Bさんが車内でおしっこをしようとするのを運転手が必死で止めている最中でした。
高齢の人は、おしっこを溜める機能が低下していて、少し溜まるとすぐにおしっこに行きたくなるという人がいます。実際には殆ど出ずに、残尿感があるというスッキリしないパターンです。
Bさんも、元々トイレがとても近い人で、あり得ることでしたが、まさか車内でズボンを下ろそうとするとは、認知症おそるべしです。
リハビリパンツを履いているので、万が一でもパンツが吸収してくれますが、普段は自分でトイレに行き、用を足している人なので、パンツの中でおしっこをする概念はありません。そういう人に対してはトイレに行くことを優先すべきと考えます。
Bさんの中ではとにかくパンツの中でおしっこを漏らすわけにはいかないという気持ちしかありません。認知症がゆえに車内でしてはいけないという常識的なところが飛んでしまったものの、パンツの中ですることに抵抗を感じる感覚はあります。
認知症が更に進むと、失禁してもわからなくなっていくので、Bさんの行動には問題はありますが、その感覚を持つBさんにはトイレに到着するまで我慢する選択肢しかありません。
すぐに出発、施設まではそう遠くない距離、到着するまでの間ひたすら声かけを続けていきます。
「もう出そうなんや!!」という切実な言葉に、
「今急いでます!」
「近道を行ってます!」
「信号青になりました、ツイテますよ!」
「信号赤だけどここの信号は早いです!」
「この辺は入れるトイレが無いので一番近いところに向かってます!」
「もうこの道を真っ直ぐ行けば到着します!」
と、とにかく急いでる状況を説明していきます。すぐ着くという言葉は逆に脳がすぐおしっこを出せるという指令を出してしまうので最後まで使いません。本人が「降ろせ!そこの道でする!」という言葉が出た時は「この道では車が多く走っていて危ないです」「トイレがあるところに急いで向かっています!」という言葉を使っていました。
高齢で認知症の人は、説明してもすぐ忘れてしまうので、都度の声かけが必要です。
Bさんのように気の短い人には、待てない気持ちを汲んだ声かけが必須となります。
パンツでしたらいいというのは、人によっては可能な場合もありますが、Bさんの気持ちに寄り添った言葉としては不適切で、逆に怒り出すことになります。あくまで、その人の気持ちを汲んで言葉を選ぶことが大切です。
認知症がゆえに、言葉や行動が暴力的で過度になる場合があります。その過度な言葉や行動は、時に惨事や混乱を引き起こしますが、そこに至る背景を見ようとすることで、捉え方が変わってくるのではないでしょうか。
介護者は、お世話をすることが大変すぎると、認知症の人への気持ちの配慮を忘れがちになるかもしれません。なんでこんな人の気持ちにならなきゃいけない!と。どちらもが尖って心が痛いです。
相手の気持ちに寄り添うことは、結果的に介護がラクになる一手にもなります。相手の立場になったらと考えるだけでも、自分には耐えがたいと思う人も多いでしょう。波立つ心も少しは和らぐことでしょう。
じっと待てない認知症の高齢者の人には、都度の状況説明、今どの状態で、どうしていっているのかを伝えてあげることで、少なからず落ち着かれます。細かな声かけで安心されます。