認知症高齢者の歯磨き
デイサービスでは、ご家族の希望に応じて、利用者の歯磨きを行なっています。高齢者なので入れ歯の人は多いです。稀にとてもしっかりした自分の歯を持っている人がいます。
認知症の人の歯磨きと言っても、歯磨きが自分で出来る人はご自身で歯磨きをしてもらいます。それは残存機能といって、認知症になっても残っている体の機能があり、それらを失わせないためです。
きちんと磨けているかということは大事ですが、デイサービスは歯医者では無いので、完璧な歯磨きはできないのが現状で、ご自身がこれまで行なって来たであろう歯磨きを見守る形が基本となります。
いろいろなパターン
これまでの習慣や、機能が落ちてしまったがゆえや、歯磨きの形も人それぞれです。
・入れ歯をはずして、歯ブラシで洗う人、手で洗う人
・入れ歯をはずさないで、そのまま磨く人、途中で入れ歯を出し入れする人
・丁寧に磨く人、そうでない人
・うがいをよくする人、そうでない人
実に様々です。
手は覚えてる
認知症のため、「歯磨き」を忘れてしまっている人や、「歯磨き」はわかるけれど、自分で出来ない人がいます。そういう人に対しては、冒頭にもお伝えしたように、人の持つ残存機能に働きかけ、職員がお手伝いします。
歯ブラシを手に持ってもらい、「歯を磨きますよ」と口元に持っていくと、手が覚えていて、自然と口に歯ブラシを入れて歯を磨ける人がいます。
また、歯ブラシを手に持ってもらい、「右上磨いてください」「次は右下」など職員の声かけ誘導で磨ける人がいます。
職員が最後の仕上げ磨きを行う場合があります。ご自身では出来ない場合です。まずは自分で頑張ってもらい、途中でバトンタッチするといった感じです。
口に入れる勘違い
歯磨きは、口の中に歯ブラシを入れるため、人によっては、食べ物と勘違いして、歯ブラシを食いちぎろうとする人がいます。それでも毎回チャレンジしていると歯磨きできる時もあるので、様子を見ながら進めます。
指にはめて磨ける指サックのような歯ブラシだと触感が伝わるのでまだキレイに磨けそうな気もするのですが、食いちぎる人が相手では、指をかまれる危険がありますし、デイサービスではそこまでの仕上げ磨きは行なっていないのが現状です。
うがいの結末
うがいの仕方を忘れても、うがいができる人は、「クチュクチュペッと吐いてください」など、ジェスチャーを踏まえて伝えると、少し時間がかかっても何とかうがいをすることができる人がいます。
しかし、認知症が進行すると身振り手振りでジェスチャーをしても伝わらず、水を口に含んで吐くことができず、結果的に飲み込んでしまいます。
歯ブラシを食べ物と勘違いするように、うがいの水を飲み物のように飲んでしまうことも起こります。
~対策~
うがいの水を飲むようになったら、「白湯」を用意して、白湯でうがいをしてもらいましょう。白湯なら飲んでしまってもまだ安心です。
携帯用歯磨きセットの落とし穴
デイサービスで、歯磨きを希望する人は皆、歯磨きセットを持参しています。その歯磨きセットが実は落とし穴なのです。
認知症の人によっては、自分で携帯用歯磨きセットを扱える人ばかりではありません。
歯磨きは自分でできるのに、歯ブラシキャップをはずすところに苦戦する人がいます。それは、指先の機能訓練的には有効ですが、本人の歯磨きしようとする意思を阻害するほどハードルが高いと本末転倒です。
当たり前のように携帯歯磨きセットは売られていて、個々にそろえても簡単に用意できるのですが、使う人の状態に合わせることが大事です。
できない状態になった人は職員が手伝いますが、身体機能的にまだできるのに、開けにくくて諦め、歯磨きをしなくなっていくということが起こることを知ってもらえたらと思います。
~対策~
歯磨きセットは本人が自分であつかえるかどうかを確かめてから持たせること
どんな歯磨きセットが良い?
それはもう、本人に合うものを見ていくのが一番です。
電動歯ブラシを使っている人もいますが、今まで電動歯ブラシを使っていない人が急に電動歯ブラシにするとビックリして混乱してしまうでしょう。
稀ですが、歯間ブラシを併用される人がいます。これまでしっかり歯のケアをされて来たことがうかがえます。
口が大きく開かない人には、大きなヘッドの歯ブラシは不向きです。
使い慣れたタイプの歯ブラシが良いでしょう。介助が必要な場合は、ヘッドが大きすぎず、どちらかというと少し小さめの方が口の中で操作しやすいです。
歯ブラシは毎日きれいにしておきましょう
デイサービスに持参される歯磨きセットは、できれば使用した日に再度家で洗うことをおススメします。ご自身で使った場合は特にきちんと洗えていないことが多く、歯ブラシに歯磨き粉や食べ物のカスが残って固まったままということが多々あります。
職員が洗う場合は、優先されるのは利用者の介助なので、すでに凝り固まった歯磨き粉を丁寧に落とす作業は余裕のある時しか難しいです。
衛生的な面で、デイサービスから帰られた時には歯磨きセットを、そしてお家では本人の歯ブラシを毎日チェックしていただければと思います。
認知症高齢者の歯磨きは、本人任せにせずに、手が覚えているといった残存能力を最大限に発揮できるように、声かけをしながら関わっていきましょう。
生きる上で大切な「食べる」ことに直結した「歯」。日々変化していく過程を注意深く見守りながら、状況に応じた対応をしていくことが必須です。
