認知症で記憶が維持できなくなったり、家族や思い出など、かけがえのないことまで忘れていく、そんな狭間の瞬間に接する機会がありました。
デイサービスの朝の送迎、独居のおばあさん宅へ迎えに行った時のこと。
そのおばあさんは、いつもいろいろなことが気になって、時間がとてもかかります。
「洗濯物を干しといた方がいいやろか」と洗濯機の中の洗濯済みの濡れた衣類を手に取ります。(干している時間は無いですよ〜)
テーブルの上のつがれたご飯をおもむろに、「ここでいいか」と、みずやの引き出しにしまっています(そんな所にしまいますか?!!)
マスクが無くて、探した末に「あぁここにあったわ」と冷蔵庫から出て来るマスク(そんな所にしまってましたか・・・)
他にも、着替えが無い、かばんが無い、上着が無い、鍵が無い、と無い物探し。場所はだいたい見当がつくけれど、人の話は聞いていない。聞こえていたとしても、「なんであんたが人の家の物がどこにあるのか知ってるんや!」と言われた職員もいるので、そこは慎重に。
「今日は何曜日?」の質問も繰り返されます。
困るのは、今日は家に居ないといけない、留守にすると勝手に人が入って来るなどデイサービスへ行くことへの拒否する場合。
拒否が入るともう話は自分が誰かに意地悪されている話にどんどん膨らんでいき、話をいったん止めようなら、「人の話を聞きなさい!」とお叱りを受けます(そのまま返したい)。
何にせよ、とにかく時間がかかりがち。「私はのろまだから最後でいいです。先に他の人を行って下さい」と言ってくれても、それを見越してあなたを最後にしてますとも言えず。
そんな人が一番気を使っているのが息子の存在。不便なことがあっても、「息子も忙しいやろうし、息子には言わんとって」など。
なのに・・・
ある朝迎えに行ったら、いつもと同じように色々気にして支度が進まないので、「今日は日曜日なので、息子さんが来てくれますから、後は息子さんにお任せしましょう」と、息子が来てくれるならという流れにもっていこうとしたら・・・
「息子?」「息子って?」と、明らかに息子を忘れている言葉。
「太郎さんですよ」と言っても、腑に落ちない表情で、「私に息子がいるの?」「太郎って誰?」と言っている。
あぁ、これはまた1つ認知症が進行しているのかもしれないと思い、息子さんの話はやめて、「下でお迎えの車が待ってますので、とりあえず行きましょうか」と伝え、意識を息子さんから離しました。
しばらく支度をする中で、「今日は日曜やし太郎が来てくれるやろ?」と、突然また記憶復活。
それからは普段どおりで、そのことはデイサービスに戻ってから職員間で共有しました。
少し前にも、お迎えに行った時に、インターホンを鳴らしても出て来られず、少し根気よく鳴らすと、パジャマ姿でドアを1cmほど開けて警戒していました。
「あなたは誰?何しに来たの?」と、明らかに私の顔もすっかり忘れて、いつもと違う様子です。怖がらせないように、名札を見てもらい、デイサービスの迎えであるという説明をするも、「今日は具合が悪いからもう出て行って」と言われます。
パジャマ姿のため、冬の玄関先は冷えるので、熱の確認だけさせてもらい、上司に状況を連絡し、いったん引き上げました。
その後、上司が再び迎えに行ったところ、「デイサービスなんか私は行ってない!知らない!」とかなりの塩対応。息子さんに連絡をしてお休みに。
その後の利用を心配していたものの、その後はまた普段と変わらぬ様子で職員皆一安心していた矢先の今回の出来事でした。
このように、忘れて戻ってを繰り返して、徐々に忘れる比重が大きくなっていくのでしょう。切ないことです。
周りができることは、忘れたことを無理に思い出させるよりも、今の状態に寄り添って、見えてる世界を理解して、不安な気持ちにさせないことが望ましいのではと思います。
