デイサービスの利用者さんには、激昂型のとても気性の荒い人が何人もいます。
本当は優しい人もいます。初介護職でデイサービスに来た時は、なんど怒られて怖い思いをしたことか…人は数年で強くなるのか、今では鍛えられ、その背景を汲み対応することができています。
ある日、一人のおばあさんが、隣りの人の頭でテレビが見えないと不満を言っていました。
それを聞いていたおじいさんが「席替わったろか?」と親切心から声をかけたところ…
なんと、おばあさんは即座に「かまへんっ!ほっといてっ!」と吐き捨てたではありませんか。
そう、ここは認知症専門デイサービス「自分の生きざま」が凝縮された認知症ワールド。心の中の言葉はそのまま流出し、本能の赴くままに動き出す世界。
おばあさんは、おじいさんに怒っていたのでは無く、テレビが見えないことに怒っていただけですが、とてもそうは見えず、言葉と表情と態度は誰かれともなく噛みつく勢いです。
案の定、おじいさんは、「何やとぉ!!」と一瞬で顔が赤くなり大噴火です。そりゃそうなります。
おじいさんは立ち上がり、星飛雄馬のお父さんさながら、ちゃぶ台をひっくり返す勢いで、テーブルの上にあった湯飲みを払いのけて暴れ出す始末です。
そのお茶がおばあさんの衣服の一部を濡らしたことで、おばあさんの矛先は今度は確実におじいさんに向けられ大激怒。なんて恐ろしい光景。
本来、スタッフが総出で止めに入り、他の利用者さんのフォローにも入るのだけれど、その時間は入浴時間で、上長以外の職員はお風呂場で入浴介助の真っ最中。
更に間の悪いことに、お風呂場でも大惨事が繰り広げられていて、誰も部屋に戻れず、知るよしも無く。
上長からの「誰か一人戻って下さい(焦)」というヘルプの声がやっと伝わり、職員が一人戻ってみたら・・・
お茶が盛大にこぼれた後と、テーブル脇にまだ怒り収まらぬ様子のおじいさん、そして玄関先には、これまた怒り心頭のおばあさん。
とりあえず戻った職員は、だいたいの想像はつくも詳細がわからないままに、おばあさんをいったん(同じ施設内)住まいまで送り届けることに。
「もうこんな所辞める!二度と行かないっ!!あんなおっさんがいる所なんかっ!!お茶かけられた!」と先に怒らせたとは全く思いもせず、おばあさんの怒りは鎮まること無くメラメラと怒りの炎が燃えたぎっていました。
一方おじいさんはというと、おばあさんが帰った後、やや冷静になり、スタッフや周りに迷惑をかけたことに、しょんぼりされていたのでした。気の毒すぎる・・・
なんとまだ続きがあり、退場したはずのおばあさんは、30分もせずに再び自力で登場。
おばあさんは、「また来たい。あのおっさんのことは見んようにするし、また来させて」と。おばあさんもまた怒りは過ぎ去り、寂しさが出て来た様子。
個人差はあれど、一人暮らしで孤独だと感じている人にとって、人と交わらなくても、色々な人と時間と場所を共有していること自体が何よりで大切で嬉しいこと。おばあさんもまたその一人。
しかしながら、ここは認知症ワールド。忘れてすぐに同じようなことが繰り返されます。そのために、予め想定できる対策を講じているのですが、全てが防げる訳ではありません。後は職員のマンパワー。
このおじいさんとおばあさんの場合は、なるべく同じ日に重ならない利用にすること、それが一番の対処法ということになりました。
介護者ポイント
○不適切な言葉の「不適切な部分」には反応しない
「かまへんっほっといてっ‼️」→「席は替わって要らないのね」と事実だけ受け止める。
○ トラブル回避に出来ること
・利用日を被らせない
・テーブルを別テーブルにする
・イスの向きで目を合わさないようにする
・視線を遮るついたてを置く
高齢者は、人の好き嫌いを含めて、歳とってまで我慢したくないといった域に達した人が割と。それでも、楽しく、いろいろ忘れてしまっても、心が平和に過ごせるような環境づくりを目指していくことはデイサービスの努めかなと思っています。
