桜が満開を迎える季節。デイサービスの送迎の車窓から見える桜並木にちょっぴりお花見気分。
ブリブリ満開の公園の桜の横を通り過ぎながら、「うわぁ〜見て見て!!桜が満開!!キレイですよ」と1人のおばあさんと話しをしていたら、あっという間に次に迎えに行く人が住むマンションに到着。
「今からお一人迎えに行って来ます!しばらく時間がかかりますので、このまま車でお待ちください」とアナウンスすると、さっきのおばあさんが「キレイやねぇ」と返事をくれました。
一瞬「え?」となったものの、時間も無かったので、笑顔で「行ってきま〜す!」と車を降りました。
そのおばあさんは、耳が遠い人では無いですが、特に最近、話しが噛み合わないことが増えた人でした。
社交的な性格で、言葉が通じなくなっていることに気づかないまま、誰にでもフレンドリーに話しかけていくため、職員は会話の流れに注視します。
どんなに支離滅裂な内容でも、そのおばあさんは、あまりに堂々と話しかけるので、聞いてる側の人が、理解できないのは自分かと逆に気にしてしまうという気の毒な展開になってしまいがちです。そのような時は職員が間に入り言葉が噛み合うように調整をしています。
この日は、迎えに行ったマンションに住むおばあさんもまた面白い返しをしていました。
2階通路には、マンション下に植えられた桜の木が、丁度目の前の高さで、触れられるほど桜を間近に見ることができる私のお気に入りスポットがあります。
足早に通り過ぎようとしているおばあさんを呼び止め、そこでもまた「見て見て!桜がこんなに近い!キレイですね!」と話しかけると・・・
おばあさんの中で何がどうなったのか、「美味しいね」と言葉が返って来ました。その時は、「そうですね」と返し、桜を後にしました。
認知症の人たちとの会話は、通じない、噛み合わないは、しょっちゅうあります。そこを通じない、嚙み合わないで終わらずに、相手に通じてると思ってもらうことで、コミュニケーションは円滑に行えます。
誰しも、自分の話す言葉が相手に伝わらないと途方に暮れたくなるというもの。認知症の人も同じです。
他国の言語なら、今では便利な翻訳機能の機器が色々ありますが、認知症の人との会話には使えません。
認知症の人と効果的に意思疎通を図るために私が意識することは4つ。
1.表情
これは鉄板ですね。認知症の人に限らず、やはり笑顔で接してくれる人は言葉が無くても、好印象に感じるものです。
しんどい時に笑顔になんてなれるか!!という人も中にはいるでしょう。笑顔になれない、そんなあなたは、あなた自身が疲れ切っています。あなたにもまた笑顔を向けてくれる人が必要と考えられますし、まずは自分を先に労わりましょう。
既にじゅうぶん頑張っているあなたには、美味しいもの食べたり、一人ホッコリする時間を少しでも作って、張り詰めた気持ちをほぐすことが先です。
しんどい時こそ笑顔は、あくまで理想であって、できない人もいます。無理しないで自分を先に労わってあげてください。
2.声のトーン
電話でよそ行きの声が出せる人なら、すぐできます。いわゆる「よそ行きの声」というのは、相手に合わせて声色を変えられるということです。
私が認知症の人と話す時には、「ゆっくり・はっきり・優しく」を基本としています。
声のトーンもまた、表情と同じく、内容がわからなくても、印象が伝わるものです。元気良く大きければよいというものではありません。
言葉が理解できなくなった人に対して、ドスの効いた野太い声で「ありがとうございます」「どうぞこちらへおかけください」と言葉を発すると、言葉の意味とは無関係に怖がられるのがオチです。
相手に合わせて声色を変えることは、安心してもらえる手段の1つです。
3.雰囲気を合わせる
介護職に就いた新人の頃の私は、認知症の人が何て言っているのか、言葉の意味を探って、わからず困ってばかりいました。それではコミュニケーションを取るなど皆無です。
そこで行き着いたのが、その人の言いたい言葉の意味を理解しようと耳を傾けることと同時に、雰囲気を合わせるということでした。
その人が笑って話しているようなら、こちらも笑顔で聴き、うなづき、相づちを打ちます。
その人が怒っているようなら、その怒りに耳を傾け、真剣な顔つきで、「それは大変でしたね」「それは怒りたくもなりますよね」と共感します。
その人が悲しんでいるようなら、そばに寄り添い、神妙な顔で「よく頑張ってこられましたね」など、労る言葉をかけながら、聴き役に徹します。
片言でも、言葉が拾えるなら、言われた言葉を復唱しながら、きちんと聴いていることを伝えます。
4.ボディランゲージ
相手に対して、身体全体を使ってコミュニケーションをとっていきます。
朝、デイサービスに来られた時には、手を横に大きく広げて、ようこそ!!のオープンな気持ちを込めて「○○さん、おはようございます!!」と元気良くあいさつします。歓迎されていると感じてもらえると、来たくなかったという気持ちがある人も、来て良かったと切り替わるきっかけになります。
遠くから呼ばれたり、何か伝えようとしていると、駆け寄る前に(目が合った時点で)、手を挙げ、今からあなたのところへ向かいますという意思表示をします。そうすることで、少しでも早い段階から、自分のためにすぐ来てもらえる、困ったことが解決できるという安心感を持ってもらえます。
用事が無くても、アイコンタクト!! 目が合うと、状況に応じてアイコンタクトをします。「大丈夫ですか?」「ご機嫌いかが?」「やらかしました」「うるさくてすみません」「困ったけど大丈夫です」など、目だけで気持ちを語ります。すると、相手からも、「大丈夫よ」「大変ね」といったアイコンタクトが返って来ます。
言葉だけで無く、ジェスチャーや、アイコンタクトを加えることで、コミュニケーションの幅は大きく広がります。
「表情」「声のトーン」「雰囲気」「ボディランゲージ」
私はだいたいこの4つを意識しながら日々の利用者との会話を乗り切っています。言葉として通じなくても、じゅうぶんコミュニケーションは取れています。
相乗効果として、私はもともと口下手だったのですが、言葉以外の伝え方を身につけたことで、今では言葉も色々出るようになりました。
言葉が通じなくて、噛み合わない時でも、真実よりも相手に合わせることが大切
送迎時に車で待ってて下さい、と言った返事に「キレイやねぇ」と言葉が返って来たら、あぁ、さっきの桜がとてもキレイだったから、まだ浸っているんだなぁと思うだけで良いのです。何だかホッコリします。
桜を見て「美味しいね」と言葉が返って来たら、「そうですね」と言いながら、花より団子派?桜餅は確かに美味しいよねなどと、自分の心の中でつじつまを合わせたり、時には「美味しいって、なんでやね~ん」と心でツッコミを入れたりします。
相手に合わせつつも、自分の中で癒しや笑いに変えて楽しむという変換ができると、言葉が通じない、嚙み合わない時、自分の心がラクになります。
どうしてもイラっとしてしまう人は、優先順位を早急に変えましょう。自分を先に労わってあげてください。イラっとするのは、認知症の人に対して、向き合ってる人、頑張っている証拠です。せっかくの気持ちが報われないのは、心に余裕が無いからなので、当面自分ファーストでいきましょう。バチは当たりません。
