今回は、介護経験値ゼロの時のお話です。
高齢者介護はおろか、認知症の人に関わることも無縁の私が、介護職に就いたのは、親の介護を身据えてのことでした。
デイサービス6年目の今は見慣れた光景であっても、最初の一歩は衝撃的で「異世界召喚」のようでした。
何を言ってるのかわからない。どう接したらいいのかわからない。せめて通訳が欲しいと願う日々。
そんなある日の出来事。あたかもここは居酒屋で、ビールでも注文しそうなノリで「姉さん!姉さん!」とおじいちゃんがスタッフを呼んでいました。
おじいちゃんが呼ぶ「お姉さん」は、みんな立派な中高年スタッフです。
このおじいちゃんに呼ばれると、スタッフはすぐに駆け寄ります。
すぐ駆けつけないと、一瞬で大声で荒れ散らかす上、他の利用者が怯えるという二次災害の特典付きなので、かないません。
おじいちゃんがスタッフを呼ぶ理由は2つ。
⓵よくわからない話
②何かに対するクレーム
どちらにせよ、適当に聞いたり答えたりすると、これまた大声で荒れ散らかす難しさ。
何を答えても「不正解」という展開が多いものの、結局は、おじいちゃんが納得出来る言葉が答えなので、そこをどれだけ推測できるかが鍵になります。言うなれば「想像力&読解力問題」なのです。
「返す言葉は慎重に」の鉄則の元、これまで数々の質問をクリアしてきたつもりだけど、、、この時ばかりは、返す言葉に詰まることが起きました。
「今何段目や?」
「え???」とわかりやすく固まる私。
フリーズした私の脳内は、何の段?何を表してる?
空手、書道、タンス、階段・・・段って意外にいっぱいあるではないか・・・「なんの段やね〜ん」一瞬にして「段」色々が脳内を駆け巡ります。
ここで「何の段ですか?」と聞くことが出来ればいいが、自分の質問に対して聞き返すと憤慨するタイプ。そんな自爆するようなマネはできません。
それに現時刻はまだ午前中。今からまだ入浴、昼食、おやつ、レクリエーション、難所は沢山残ってるので、ここで不機嫌になられては、後の予定がつぶれてしまいます。
そんな私の思いと裏腹に、追い討ちをかけるように、「今何段目や?」と二度目の同じ質問。
同じ質問を2回して来たってことは、絶対おじいちゃんには重要な質問なのではないか?!
早く答えないと、それはそれでブチギレて手に負えなくなる。
タイムショック並みの緊張感。チッチッチッチッ
もうダメだ・・・
「3段目ですかね〜」と苦し紛れに答えてみる。
「そうか〜(納得)」とおじいちゃん。
よっしゃ〜‼︎セーフセーフセーフ‼︎
心の中で安堵の舞
今日一日の任務を終えたかのような気分(まだ半日以上あるぞ)
本人は納得したので良かったけど、結局、何の段だったのかは不明のまま。
「教えて、おじいさん」とハイジなら聞けるんだろうなぁ。
