認知症高齢者にとって、コミュニケーションを取れる居場所があり、楽しく話せる相手が居ることは、本人も家族も嬉しいことです。
実際には話がかみ合わない、何を言ってるのかわからない、そもそも話さないなど、会話のキャッチボールができないことが多くあり、放っておくとトラブルに発展することもあります。
今回は、認知症高齢者同士のコミュニケーションをあきらめなかった男性のお話しです。
男性同士の友達は狭き門
男女の比率からも比較的女性の利用者が多いデイサービス。男性Aさんは女性には馴染めず、いつも男性との会話を求めています。
しかしながら、認知症高齢者の中で、会話ができて、男性でとなると、狭き門。
他の男性は話しかけられたら応えるけれど、自ら会話をしようとする人はほとんど居ません。Aさんもまた耳が遠いせいもあり、余計に積極的に他の人に自ら話しかけることはできません。
運命の出会い
そのような中「運命の出会い」が訪れました。
BさんはAさんよりも先にデイサービスを利用していて、謙虚ながらも、人と話することは好きで、会話のキャッチボールが可能な人です。
ただ、帰宅願望が強く、落ち着きがありません。週に1度の利用のため、慣れる前にリセットされてしまうのが悩みの種でした。
ある日、Bさんの隣の席に、Aさんが新しく入って来ました。
認知症高齢者は同じ話を何度も繰り返す人は多く、AさんもBさんもそこは同じです。大きなポイントは、お互い相手の言葉をあきらめずに理解したいと思いながら会話を進められる点でした。
認知症でなくても、人の話を聞かない会話の一方通行の人は多いですが、その点、二人は自分よりも相手をおもんばかるタイプで、お互い同じ話でも気にする様子はありません。
Aさんの聞こえの悪さもBさんは気になりません。気の合う者同士という認識で、あっという間に仲良くなっていきました。
Bさんの帰宅願望は落ち着き、入浴拒否も、二人揃って案内することで入れるようになりました。いっしょにパズルをしたり、会話をしたり、いつもとても楽しそう。
片方がトイレに行くと、どこに行くのか心配したり、お風呂から部屋に戻る時も一緒でないと不安がり、もはや恋人同士のような仲睦まじさになりました。
織姫と彦星
せっかくの楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。二人は週一しか同じ利用日はありません。Aさんは他の曜日の利用時に「男性は他に居ないのでしょうか?」と何度も何度も職員に尋ねます。それがBさんのことなのか、会話ができる男性という意味なのか・・・
Aさんとしては、目の前に違う男性の利用者が居てても会話ができないと、この男性は違うとなり「男性は他に居ないのでしょうか?」となります。
Cさんという会話が可能な男性もいますが、一人時間が好きなCさんはずっとは会話をしてくれません。そうなるとまた「男性は他に居ないのでしょうか?」となります。
Aさんは「男性がいないなら(デイサービスに)来なかった」と職員に訴えるほど、Aさんにとって、男性と会話することは心の拠り所となっているようでした。
週に1回しか逢えない、まるで織姫と彦星のようです。

なんと転機が訪れる!
もしかしたら、Bさんの利用が増えるかもしれない!
デイサービスの利用は、家族がケアマネージャーを通して、利用の度合いを決めていきますが、受けられるサービスや家族の都合、経済的な負担、施設側の受け入れなど、いろいろな調整で組まれているため、本人の意向は残念ながら優先順位低めです。
しかし、他のデイサービスでは入浴ができない事態がでてきたことがきっかけで、私の職場であるAさんと一緒のデイサービス利用に切り替える案が浮上してきました。
Bさんの入浴拒否や血圧高めが原因です。
血圧が高いと危険なので入浴はどこのデイサービスでも無理なのですが、単に入浴拒否については、デイサービスそれぞれの頑張りどころで、声かけや誘導の仕方など駆使しながら、入浴拒否の人にアプローチします。
私の職場のデイサービスでは、BさんはAさんが居ると比較的スムーズに、Aさんが居なくても職員の手腕でBさんに入浴してもらえているため、他の曜日も乗り換え検討事案になったのでした。
認知症高齢者同士のコミュニケーションは難しくとも、叶わないものばかりではありません。出会いのタイミング、周囲のサポート、本人の意欲などで上手くいくことがあります。
AさんとBさんの逢える曜日が増えて、少しでも二人が幸せな時間を共有できることを職員皆願っているところです。
