ケアハウスに住む認知症高齢者のお話しです。
ケアハウスは自立した生活が送れるけれど頼れる身寄りが居なくて不安、軽い支援が必要といった高齢者が入居できる高齢者福祉施設です。
ケアハウスに住むおばあさんが施設を通してデイサービスに来ています。無表情で耳が遠いこともあり、積極的に周りと関わろうとしないタイプでしたが、デイサービスに来ると否が応でも周りと関わる機会が増えます。
デイサービスに週に何度か通うことで出かけ先として定着したのか、抵抗なく来てくれ、可愛らしい笑顔を見せてくれることが今ではよくあります。
耳が遠いとトラブルになりやすいのですが、人と争うことは避けたいと言い、言いたいことがあっても大人の対応をしていて切ない時があります。
認知症だからすぐ忘れるというのは皆ではありません。嫌なことを言った側は自覚も無くすぐ忘れていますが、そのおばあさんはしばらくは覚えています。
そんな時は”嫌な気持ちになったことをちゃんとわかっている人が居ますよ”という意味を込めて少し気持ちに触れると穏やかになっていくのがわかります。
先日、デイサービスが終わり、ケアハウスの部屋まで送って行った後に他者を自宅へ送り戻って来た時のこと。
そのおばあさんが玄関先で夕涼みをしていました。声をかけると散歩が大好きなおばあさんは「もう少し陰って来たら散歩に行こうと思ってる」と言っていました。
「本当はもっと向こうの方まで行きたいけど戻って来れなくなったら困るし」と、いつも門が見える範囲で散歩しています。行方不明になる人とは違い、自分の行動範囲を心得ていて安心です。
おばあさんには甥や姪がいるのですが絶縁状態で、親族では無い後見人をたてられています。おばあさんにとっては会える家族が居ないと同じです。
おばあさんは身の上を少し語りだします。兄や姉の5人兄弟で、自分は一番下ということ。お兄さんは戦死したこと、2番目のお姉さんは優しかったこと、甥がいるはずやけど男の子だから会うとか全然無いこと、
そして同じ市内にいてたはずのお姉さんのことが気にかかるけれど、もう住んでる場所も詳しくは覚えていない、ここから行けるのやろかと。
自分はこの先どうなるんやろう
同じケアハウスに住む人から「死ぬまでここにいるんや」と言われたらしく、その言葉は重く強く心に刺さってしまい、何日経っても忘れることができなくっていました。
要介護はまだ1で、90代ですが、自立した生活ができてられるので病気やケガが無い限りはしばらく今の環境で暮らすことになるでしょう。
聴いていると、死ぬ前に優しかったお姉さんにもう一度会いたいんだんなぁと感じとれます。おばあさんの歳からすると存命でも100歳を超えている可能性があり現実的には難しそうです。
「寂しいなぁと思う時がある」という言葉は、静かに消えていきました。
叶わない願いもありますが、デイサービスで新しい仲間や出会い、できることもまだまだあります。寂しい気持ちを少しでも埋められる時間で、笑顔になれるサービスを提供していけたらと思うのでした。
